2023 0813

 乗代雄介の『最高の任務』を読み終えた。付箋を貼った文章をここでも書いておきたい。

「私はこの目に映る景色について書くことが好きだ。思弁や回想を長回しするよりずっといい。こういう考えだって、叔母が巧妙に根付かせたものだと思えてならない。彼女は自分を思い返すことが風景を眺めることと同じになるように、この世界について教えたんじゃないか。そんな邪推を抱えて生きている私でも、今日のような旅では具合が悪い。数列前に家族がいるとなると、奇妙な表現だが、私の目は景色に口をつぐんでしまうような気がする。」(p,131)  

 

 思弁や回想のまどろっこしさは僕も嫌っている。僕が面倒に思おうが嫌おうが避けようが、それらが必要なことには変わりない。ため息が出るような状況を頭の中で再生して、それが起きる条件や設定の証拠を集めて、更にそれらを言葉の網で捉えて他人に伝わる形にまで持っていく。これは、何重にもしんどい。だけれど、「親ガチャ」や「繊細さん」とか手垢のついた適当な言葉で上書きして自分のことを捨象する生き方よりも誠実だとは思う。